トップページ > 京劇を楽しもう


京劇を楽しもう~初めて観る世界 「京劇を紹介するよ~!」

  きらびやかな衣装、民族楽器で演奏される独特な音色と旋律に目と耳を奪われ、積み重ねられた訓練によって生み出されるしなやかなしぐさや技、情感溢れる歌声に心揺さぶられる京劇。舞台からのエネルギーに圧倒される経験をした方も多いでしょう。
  百聞は一見に如かず、まずは我が国の文化と共通点の多い隣国・中国の舞台芸術に触れてください。きっと更に深く味わいたいと感じることでしょう。観たままに楽しめるのが京劇ですが、ここではもう一歩、京劇についての初めての“関心”にお応えしていきます。

見てみよう! 聴いてみよう! 京劇の表現について 京劇とは

見てみよう!
舞台 

京劇の舞台・一卓二椅
一卓二椅


京劇の舞台・王の棺、墓の出入り口
「盗王墳」より
王の棺(左)と
墓の出入り口(右)を表す。
  伝統的な様式では、舞台装置はほとんどなくほぼ素舞台の状態で、場面を推測するヒントになる最小限の道具が置かれているだけです。基本的な道具として「一卓二椅」(一つの机と二つの椅子)と言われますが、そのまま机と椅子を表すこともあれば、ベッドあるいは山を表したり、(とばり)を付けて寝室や軍の陣営を表したりします。最小限の情報だけを示して、観客に想像する余地を大きく残しているのです。但し、近年は舞台装置を取り入れ、写実的でわかりやすくなっている舞台もあります。

俳優 
  舞台装置が簡素な分、俳優が表現する役割は大きくなります。衣装や化粧、しぐさなどが様式化されているのも、観客がよりわかりやすく状況を理解する助けになっています。俳優が登場したら、その姿を見てみましょう。形や色から、その人物を読み取れる情報があります。例を挙げると…
     衣装
<宮廷での礼服
京劇三国志「赤壁の戦い」劉備
「赤壁の戦い」 劉備
(湖北省京劇院・孫忠勇)
<官 衣>
京劇「覇王別姫-漢楚の戦い」李左車
「覇王別姫」 李左車
(天津青年京劇団・盧松)
<軍 服>
京劇三国志「趙雲と関羽」趙雲
「趙雲と関羽」 趙雲
(中国国家京劇院・趙永偉)
<普段着>
京劇三国志「呂布と貂蝉」貂蝉
「呂布と貂蝉」 貂蝉
(北京京劇院・郭偉)
<普段着>
京劇水滸伝「烏龍院」張文遠
「烏龍院」 張文遠
(上海京劇院・厳慶谷)
きらびやかな龍の刺繍、裾に波模様があり、腰にデフォルメされた丸い輪の玉帯(宝石を散りばめて飾った帯)をつけており、身分が高い人を表す。
胸と背に四角の刺繍があり、文官を表す。
デフォルメされた(よろい)姿。背負っている4本の旗は、この人物が大勢の兵士を従えている武将であることを表す。
身分や地位に応じた模様の刺繍がある。男性用の丈はは足元まで、女性用は膝下までで短い。赤色のものは婚礼衣装。
主に一般庶民の平服。文武の官吏も着用。
色については、一般に下記のような意味をもちます

○黄色
○赤色
○うぐいす色

○桃色・白色
○黒色
…皇室など高貴な人物
…王侯・重臣・権臣
…老臣・長者
…若者
…勇猛な将軍

それ、気になる~! 京劇三国志「呂布と貂蝉」貂蝉
「呂布と貂蝉」 貂蝉
(北京京劇院・郭偉)
袖から出ている長い白い布は「水袖」[シュイシウ]と呼ばれ、長く伸ばしたり、たくしあげたり、色々に動かすことで感情や動作を大きく表現するのに使います。美しく使いこなすのも俳優の基礎的な技量です

     かぶりもの
京劇三国志「呂布と貂蝉」王允
「呂布と貂蝉」 王允
(北京京劇院・韓勝存)
KYOGEKI2006「盗庫銀」知事
「盗庫銀」 知事
(雲南省京劇院・張鳴鷺)
官僚がかぶる黒い帽子には左右対になって揺れるものがついているが、形が四角なら普通の官僚であり、丸や三角なら道化か悪人を表す。
「京劇水滸伝-野猪林-」林冲「京劇水滸伝-野猪林-」林冲
「野猪林」 林冲 (北京京劇院・葉金援)
男性が帽子をかぶらずにポニーテールのように結わえた長い黒髪をあらわにしていたら、逮捕や敗戦、病気を表す。

それ、気になる~! 京劇三国志「赤壁の戦い」周瑜
「赤壁の戦い」 周瑜
(湖北省京劇院・呉長福)
京劇西遊記「孫悟空大鬧天宮」孫悟空
「孫悟空大鬧天宮」孫悟空
(北京京劇院・詹磊)
武将のかぶりものから生えている2本のしなやかな羽は「翎子」[リンズ]と呼ばれ、その正体は(きじ)の尾羽であり、大変貴重で高価なものです。これを巧みに操ることで舞台に美しい曲線を描き、細やかな感情表現を行います。

     靴
京劇三国志「趙雲と関羽」張飛
「趙雲と関羽」 張飛
(中国国家京劇院・趙永墩)
男性が履く靴には10cm以上もある厚底の靴がある。明代の装いの影響を受けたものだそうだが、身分の高い人はこの靴を履き、人物を大きく見せて威厳を表す。この厚底靴を履いて激しい立ち回りをする姿は圧巻。

     役柄と化粧
  京劇の代表的な特徴の一つとして、役柄が≪(せい)≫≪(たん)≫≪(じょう)≫≪(ちゅう)≫の4種類に大別されています。俳優は自分の役柄を生涯一筋に探求し修練を積むことを惜しみません。これらの役柄と化粧は密接に結びついています。簡単に紹介しますと…
生 …男性役
おしろいを塗り、目の周りや唇に朱をさす。
京劇三国志「呂布と貂蝉」呂布
「呂布と貂蝉」 呂布
(北京京劇院・李宏図)
旦 …女性役
おしろいを塗り、目の周りや唇に朱をさす。
京劇三国志「趙雲と関羽」糜夫人
「趙雲と関羽」 糜夫人
(中国国家京劇院・郭霄)
丑 …滑稽な人物
顔の中央部のみを白く塗る。
京劇「徐九経昇官記」徐九経
「徐九経昇官記」 徐九経
(湖北省京劇院・朱世慧)
浄 …エネルギーの特に強い男性役
顔全体に「臉譜(れんぷ)」と呼ばれる隈取りをし、色や形式で人物の性格や命運、特定の人物を表す。色に含まれる意味の例を挙げると、
○赤色
○白色
○黒色

○青色・緑色
○黄色
○金色
…忠実で勇気があり、称賛される人
…陰険で悪賢く、強情で独りよがりな人
…勇猛で知恵がある人

…市井の英雄など勇猛な人
…勇猛で気が荒い人
…神仙や妖怪
                など
京劇三国志「赤壁の戦い」関羽
「赤壁の戦い」 関羽
(湖北省京劇院・程和平)
京劇三国志「趙雲と関羽」曹操
「趙雲と関羽」 曹操
(中国国家京劇院・魏積軍)
京劇三国志「趙雲と関羽」許褚
「趙雲と関羽」 許褚
(中国国家京劇院・劉騰蛟)
京劇三国志「趙雲と関羽」夏侯惇
「趙雲と関羽」 夏侯惇
(中国国家京劇院・楊俊峰)
京劇水滸伝「三打祝家荘」楊林
「三打祝家荘」 楊林
(中国国家京劇院・趙永墩)


それ、気になる~! 4種類の役柄は更に細かく分類されます。それぞれ歌唱、セリフ、しぐさ、立ち回りなどを主にしたり、流派もあります。お気に入りを見つけたら、掘り下げていくと興味深いでしょう。

「臉譜」の種類はたくさんありますが、模様にはそれぞれ意味や由来があったり、特定の人物には伝統的に決まった様式があります。ひと目でその人物がわかるようになったら、もう京劇通ですね。


聴いてみよう!
音楽
  楽団は伝統的な中国民族楽器で構成されています。舞台に向かって右袖幕の内側に位置し、生演奏をします。唱の伴奏のほか、人物の登退場や動作のきっかけ、効果音などを受け持ちます。演目により用いられる楽器の増減はありますが、ベースになる編成は下記の楽器です。
京胡
京胡 [ジンフー]
硬質で甲高い豪快な響きを持つ京劇の主伴奏楽器。直径5cmほどの竹の胴に蛇皮をかぶせ、馬の尻尾で作った弓で弾きます。全長50cm弱で弦は2本。
京二胡
京二胡 [ジンアルフー]
京胡より大きく全長65cm前後で胴は直径8~9cm。梅蘭芳が女役の伴奏に取り入れました。低音で深みのあるしっとりとした音色。
月琴
月琴 [ユエチン]
円形で平たい胴は桐製。三弦か四弦でバチではじいて演奏します。明瞭な音。
哨吶

嗩吶 [スオナー]
円錐形の木管には前に一つ孔があり、先に銅製の拡声部分がつきます。鋭い響きで伴奏をつとめるほか、効果音や様々な場面の雰囲気を作り上げます。日本に伝わりチャルメラになったと言われます。
打楽器
打 楽 器 (上 段)
小鑼 [シャオルオ]
直径20cmのドラの仲間で左手の親指と人差し指でつまんで持ち、竹製のバチで打ちます。明るい音で文人や女性、滑稽な人物の登退場や動作に合わせます。
大鑼 [ダアルオ]
直径約30cmのドラの仲間。左手で持ち手を持って垂らし、先端に布を巻いた棒で打ちます。高い音。武将や身分の高い人物の登退場や戦闘、急展開に用います。
(下 段)
板 [バン]
拍板。幅約6cm、長さ約20cmの木片3枚でできており、2枚はしっかりとくくり合わせ、もう1枚は紐でくくり付けてあります。澄んだ音で唱の拍子をとります。単皮鼓の奏者が兼ねます。
単皮鼓 [ダンピィグー]
小鼓とも。直径約25cmの片面だけに皮を張ってあります。竹製の細いバチで打つため、硬く鋭い響き。両手で打ったり、片手だけ持ち替えて拍板を鳴らしたりします。
鐃鈸[ナオボー]
銅製のシンバル。風や水の効果音にも用います。

それ、気になる~! 京劇の楽団にはオペラのオーケストラのように指揮棒を振るう人がいません。指揮者の役割を担うのが単皮鼓と板の奏者で、「司鼓」と呼ばれる重要なポジションです。俳優の呼吸に合わせながら、その演奏によって楽団を統率し、舞台の進行をリードすることもあります。


歌唱
  京劇の歌唱には伝統的な旋律のパターンがあるので、何度か観劇すると知らず知らず耳に馴染んでくることでしょう。人物の内面の感情が豊かに表現される、お芝居の核心を成すパートですので、朗々と歌い上げられ響く歌声とその喉をじっくりと堪能してください。
それ、気になる~! 京劇は「歌唱、セリフ、しぐさ、立ち回り」という4大要素からなる総合芸術ですが、ペキン・オペラと英訳される通り、歌唱の重要性は大きく、また楽しみどころでもあります。京劇を観ることを「京劇を聴く」と言われる所以ですね。


京劇の表現について
  伝統芸能が長い時間を経て世代を渡ってもなお絶えることなく人々の共感を呼ぶのは、人の根底にある美意識や概念、情緒といったものが凝縮し昇華されたものを軸にしているからでしょう。
  京劇の舞台にリアルな舞台装置が無かったり、飾り立てずに空間を広くとっているのは、京劇という芸能がありのままを再現してみせる必要がなく、物事の本質や人物の心情を表現することに重きを置くからであり、むしろ俳優の演技や音楽によって観客は舞台に無いものや空気感まで自由に想いを馳せて”鑑賞”することができるのです。舞台と客席は一体となり、同じ世界を共有します。

小道具  
  舞台装置は簡素ですが、小道具を巧みに用いて豊かに表現し、観客に様々な空間を見せていきます。ここでは小道具について少しご紹介しましょう。
     馬鞭
馬鞭馬鞭
京劇には馬に乗った武将がたびたび登場しますが、これらの馬は小道具で象徴的に表されています。籐の本体に房飾りがついており、馬のたてがみに見立てています。これを手に取り動かすことで騎馬を、ただ手に持っていれば馬を牽いていることを表す画期的な小道具です。数種類の色があります。

     車旗
車旗
戦場を移動する車は、車輪を刺繍した旗で表されます。主人と従者が1組になり、従者が両脇に掲げた2つの車旗の間に主人が入って、舞台上を移動します。

     令旗
令旗
命令を伝える時などに用いられます。


文戯と武戯
  京劇の海外公演で観客がまず魅了されるのは、アクロバティックな立ち回りかもしれません。京劇には「文」・「武」という概念があり、「文」は歌唱・セリフを中心とする、「武」は立ち回りを中心とするシーンや芝居を指します。京劇は「文」あり「武」ありの総合芸術ですので、どちらも存分にご堪能ください。
それ、気になる~! 歌舞伎になぞらえて言う「見得(みえ)を切る」所作は「亮相」[リャンシアン]と呼ばれ、緩急のリズムを作り、感情の高まりを表すもので俳優の力が入るところです。舞台と観客が一体となる瞬間でもありますので、称賛の気持ちは拍手で伝えましょう。


京劇とは
  京劇の起源は清代、乾隆帝の80歳を祝う為に安徽省の地方劇(徽調)の4つの劇団が北京に進出し、大人気を博して定着した1790年とされています。その後、他の地方劇や民間芸能の影響も受け、徐々に「京劇」の形を整えていきました。そして宮廷の庇護を受けながら庶民層にも愛されて、首都・北京に君臨するようになりました。
それ、気になる~! 日本の伝統文化にも通じるところがありますが、以前は中国でも女性が舞台に上がることは禁じられており、全て男性が演じていました。しかし、中華民国期になると女優が少し出現し、中華人民共和国建国以降、女性役は女性が演じるようになり、いわゆる「女形」は少なくなっていきました。


  上述の内容は、ほんの一例に過ぎません。興味が涌いたところを入口にしていけば、京劇を鑑賞するたびに新たな発見と面白さが増し、更に広大な魅力溢れる京劇ワールドに出会えることでしょう。古典芸能が持つ”様式”は堅苦しいものではなく、観客に向けて端的に情報を提示するものとして、時間をかけて洗練されたものです。知れば知るほど、観れば観るほど、聴けば聴くほど味わい深く、興味は尽きることがないでしょう。

  京劇にはたくさんの演目があります。さあ、いろいろ観てみましょう!きっと新たな好奇心が生まれます。京劇鑑賞の入口に立った皆様のガイドとして、少しでも助けになりましたなら幸いです。



トップページへ ページの上へ
記事及び画像等、掲載内容の無断転載を禁じます。
Copyright © 楽戯舎 All Rights Reserved.